雑記

演奏と人生が突き刺さる。映画「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」感想(後半ネタバレ有)

“20世紀最も偉大なバッハの奏者”といわれるブラジル人ピアニストのジョアン・カルロス・マルティンス。ハンディキャップに不屈の精神で立ち向かう彼の人生を追った本作は、涙なしには観られない心に突き刺さる映画でした。ご紹介します。

ジョアン・カルロス・マルティンスの波乱の人生

ジョアンは、1940年6月25日にサンパウロで生まれたピアニスト。

8歳の時に音楽大学の教授ホセ・クリアスに師事し、その翌年にはわずか9歳で、ブラジルで開催されたバッハ協会主催のコンクールで優勝しました。

13歳の時にはブラジルデビュー。20歳でカーネギーホールでの演奏会も成功させ、世界的に活躍していくこととなります。

しかし、彼の人生は順風満帆なままではありませんでした。度重なる苦難を、それこそ「不屈の精神」で乗り越えていくことに・・・。

この映画は、彼の華々しい活躍、そしてその後の人生の度重なる苦難を美しい演奏と共にまとめあげられています。

今回、私がこの映画を観るきっかけになったのが、Youtubeで流れてきたこの予告動画です。

ジョアンは、2016年のリオパラリンピックの開会式で国歌を演奏。その演奏は日本でも話題となったそうですが、恥ずかしながら私は彼のことを存じ上げませんでした。

映画も、この予告だけで特に下調べをせず観に行ったのですが、この映画に関してはそれが良かったと思っています。

彼のことをよく知らないけれど興味を持ってここに読みに来られたという方は、ぜひ余計な知識を入れずそのまま観に行って頂きたいと思うところです。

(この先ネタバレ有りです。)

全編に渡り、音楽も聴きどころなので映画館で観ることをおすすめします。

「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」感想

才能あふれるジョアンの活躍は観ていて気持ちがいい。

映画の前半は、子供時代の才能の開花や20代の頃の華々しい活躍が爽快に描かれています。

中でも印象的なのが、「4週間では難しい」とボレットが辞退したというヒナステラの協奏曲に「3週間もある」と挑む姿。そこで流れるのが予告のハノンです。

映画の序盤でピアノを習い始めたばかりの頃のジョアンが弾くハノンとの対比に「おぉ!」と思わされました。

私は彼の人生を知らなかったので、この曲が後の麻痺の原因?と思いながらハラハラして本番を終えるのを見届けました。なお、一瞬ヒナステラを憎んだのはここだけの話。(無知ってこわい。ごめんなさい)

また、ジョアンのすごいところは超絶技巧だけではありません。

バッハを全曲暗譜していると言い、サラッと弾くゴルトベルク変奏曲。子供にピアノを教える際に奏でた「トロイメライ」。

どれをとっても美しく、才能あふれるジョアンの虜になってしまいます。

何度も訪れる不幸と、それに立ち向かう不屈の精神。

世界的にも認められ、順風満帆に思えたジョアンのピアニスト人生。しかし、度重なる不幸でピアノが弾けない事態に何度も見舞われてしまいます。

1度目はサッカーの練習中の怪我がきっかけ。右腕を損傷し3本の指が自由に動かなくなりながらも、リハビリとギプスで演奏家として生き続けようともがきます。

それでも一度は諦めることになる演奏家としての人生。そこに彼は、不屈の精神で再び舞い戻り、演奏家としての復活を遂げたのです。

良かった・・・そう思ったのも束の間、再び不運に襲われる。彼は何度も挫折を経験しながら、しかしその度に立ち上がり続けました。

美談のようですが、普通にピアノが好きなだけの筆者でも弾けなくなるというのは想像もしたくないこと。あれだけ才能に溢れたジョアンにとって、それは生きる意味を失うと同等のことだったろうというのは想像に難くありません。

だからこそ、この映画は観ていて本当に辛かったというのも事実です。

あの苦しみから立ち直ったのだから、今度こそ幸せに弾かせてあげてほしい。何度も願いながら観劇していました。

こんなにフィクションであって欲しいと願った映画はありません。

音楽家であることを諦める必要はない。

脳の損傷で右手の自由が利かなくなり、左手での演奏をするようになったジョアンでしたが、今度はその左手までも奪われることに。

絶望し、音楽家であることを諦めかけた彼に、妻がかけた言葉がこれでした。

「音楽家であることを諦める必要はない」

そして彼は「音楽家」であり続けるために、「指揮者」として生きることを選びます。

本当にすごい方だと思います。

本編中、何度も立ち直る姿に心を打たれつつも、不運の連続に心が苦しくて観ているのが辛かったこの作品。でも、ラストで気持ちが救われました。

指揮者として舞台での成功を収めた後、映画のラストに出てくるのが、指が自由に動かなくなったジョアン本人のピアノ演奏。

そして、本編の演奏は全てジョアン自身のものであることが知らされます。

彼が音楽家であり続けてくれて良かったと心から感じました。

「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」まとめ

「この作品をもう一度観たいか?」

もしそう聞かれたら、いい作品だけれど2度は観られないというのが私の正直な感想です。

20代までの華々しい活躍と演奏はもう一度観たい。でも、何度も立ち直るのにその度に訪れる不幸は、実話だからこそ辛くて観ていられません。

でも、ピアノを演奏するものとして、この作品やジョアンというピアニストに出会えたことは、本当に良かったと思っています。

最後に、作品中最も印象に残ったセリフをご紹介します。

「バッハの作品は、全ての演奏者のためにある」

演奏会に向けたレッスンの最中、バッハの平均律を弾くジョアンに向けて先生が教えた言葉です。

ジョアンが完璧と思って弾いたフレーズを先生が弾いて聴かせる。もう一度弾いてくれたら同じように弾けるという彼に、解釈はそういうものではないと教えるのです。

「バッハの曲はすべての演奏者のためにある。」だから「休符をどう表現するか、それが大切」なのだと。

音楽って深い。だから面白い。そして美しい。ジョアン自身、何があってもピアノに向かい続けられたのはここにあるのかもしれません。

この映画に出会えて良かったです。